ADHDで段取り・マルチタスクができない|会社員のための仕組み化

ADHDと仕事



朝、複数の仕事を前にして、どれから手をつけるかを決められないまま時間だけが過ぎていく。ひとつの作業をしている最中にメールが届き、そちらへ気を取られ、気づけば最初の作業がどこまで進んでいたのか分からなくなっている。会議で「並行して進めておいて」と言われるたびに、頭の中が渋滞するような感覚になる。ADHDの特性がある方から、私はこうした声を何度も聞いてきました。

先に申し上げておきたいことがあります。段取りやマルチタスクがうまくいかないのは、意志が弱いからでも、努力が足りないからでもありません。脳の働き方の特性に基づいた、自然な反応なのです。この記事では、なぜ苦手になるのかという仕組みと、会社員として働きながら実行できる具体的な対処を、順番に整理していきます。

結論:マルチタスクをやめ、シングルタスクに「仕組みで」変える

最初に結論をお伝えします。ADHDの特性がある方が段取りやマルチタスクで消耗しないための答えは、「マルチタスクの能力を鍛えること」ではありません。むしろ逆で、マルチタスクを最初から手放し、一度にひとつだけを進める形(シングルタスク)に、環境と手順のほうを作り替えることです。

ポイントは3つに整理できます。

  • 頭の中で覚えておくのをやめ、外に出す。タスクを付箋・カレンダー・アプリなど目に見える場所へ移し、記憶に頼らない状態を作ります。
  • 「今やる1個」以外は視界から消す。並行して抱えると必ず取りこぼすため、進行中のタスクを物理的にひとつに絞ります。
  • 割り込みと優先順位に、あらかじめルールを決めておく。その場で判断すると特性の影響を受けやすいため、判断を減らす設計にします。

これは気合や根性の話ではありません。以降で、それぞれの手順を具体的に説明していきます。

なぜ段取り・マルチタスクが苦手なのか(ワーキングメモリと実行機能)

段取りやマルチタスクが苦手になる背景には、ADHDの中核にある2つの機能が関係しています。ワーキングメモリ実行機能です。この2つを理解しておくと、対処の方向性がはっきりします。

ワーキングメモリ:頭の中の「作業台」が狭い

ワーキングメモリとは、必要な情報を一時的に頭に留めながら作業を進める力のことです。料理でいえば、鍋の火加減を覚えつつ、次に切る野菜を思い出し、盛り付けの段取りを組み立てる、といった同時進行を支える機能にあたります。ADHDの特性があると、この作業台のスペースが狭くなりやすい傾向があります。

作業台が狭いと、複数の仕事を同時に頭へ載せた瞬間に、どれかが台からこぼれ落ちます。「A社の返信を書きながら、B社の資料の締め切りを覚えておく」ことが難しく、返信を書き終えた頃にはB社の件が抜け落ちている、という現象が起こるのです。これは注意力の問題というより、記憶を保持できる容量の問題だと考えています。

実行機能:手順を組み立てて動き出す機能

実行機能とは、目標に向かって「何を、どの順番で、いつやるか」を計画し、実際に動き出し、途中で軌道修正する一連の働きを指します。段取りそのものを担う機能だといえます。ADHDの特性があると、この実行機能が働きにくい場面があり、次のような形で表れます。

  • やるべきことは分かっているのに、最初の一歩に着手できない
  • 大きな仕事を、小さな手順に分解するところでつまずく
  • 作業の途中で別のことに気を取られ、元へ戻れなくなる
  • 締め切りが遠いと、着手のスイッチが入らない

ワーキングメモリの狭さと実行機能の働きにくさが重なると、「複数のことを覚えながら、手順を組み立てて、順に片づける」というマルチタスクは、構造的に難しくなります。これは単なる性格の問題ではなく、特性に基づいた反応です。だからこそ、努力の量を増やすのではなく、脳に負担をかけない仕組みへ切り替えることが必要になるのです。

覚えておきたい前提

ワーキングメモリが狭いことは、能力が低いこととは違います。作業台が狭いなら、台の上のものを減らし、覚えておく代わりに書き出せば、同じ作業を無理なく進められます。問題は脳ではなく、脳に合っていないやり方のほうにあります。

そもそもマルチタスクは、誰にとっても非効率です

ここで、少し前提を広げておきたいことがあります。マルチタスクが苦手なのは自分だけの欠点だ、と受け止めている方は多いのですが、実際にはマルチタスクという働き方そのものが、人間の脳にとって効率の悪いやり方だと考えられています。

人間の脳は、本当の意味で2つの作業を同時に処理しているわけではありません。実際に起きているのは、作業Aと作業Bのあいだを高速で行き来する「切り替え」です。そして、この切り替えのたびに、脳は「さっきどこまでやったか」を思い出し直すコストを払っています。このコストは、切り替えが多いほど積み重なります。

つまり、複数を並行しているつもりでも、実際には1つずつを細切れにこなしているだけで、その切り替え分だけ時間とエネルギーを余計に消費している、という構図です。多くの人はこの非効率を「なんとなくこなせている」ように見せているだけで、能力が高いから同時にできているわけではありません。

ADHDの特性がある方の場合、この切り替えのコストがさらに大きくなりやすい傾向があります。切り替えた先で別の刺激に気を取られたり、元の作業へ戻る道筋を見失ったりするためです。だからこそ、次の考え方が重要になります。マルチタスクをうまくやろうとするのではなく、マルチタスクという状況そのものを減らすという発想です。苦手を克服する方向ではなく、苦手が発動しない環境を作る方向に、力の入れどころを移すのです。

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シングルタスク化の仕組み(具体的な手順)

ここからは、実際に手を動かす手順に入ります。目的は、目の前を「今やる1個」だけにし続けることです。以下の4ステップを、朝の数分でまわす形をおすすめしています。

ステップ1:抱えているタスクを、全部そとに書き出す

まず、頭の中にある「やらなければならないこと」を、大小を問わず全部書き出します。付箋でも、メモアプリでも、紙でも構いません。ここでの目的は整理ではなく、頭の作業台を空にすることです。書き出した時点で、覚えておく負担がなくなり、それだけで気持ちが軽くなる方が多くいます。

ステップ2:「今日やる分」だけを選び、残りは視界の外へ

書き出した中から、今日ふれるものだけを3〜5個選びます。それ以外は、別の場所(明日以降のリストやアプリの下層)へ移し、今日の視界から消します。選ばれなかったタスクが目に入り続けると、頭の作業台は空になりません。見えないところへ片づけることまでが、この手順に含まれます。

ステップ3:選んだタスクを「10分で終わる大きさ」まで刻む

「資料を作る」のような大きな塊は、着手のスイッチが入りにくいものです。これを「テンプレを開く」「見出しだけ3つ書く」「昨年の資料を探す」というように、10分程度で終わる一手まで小さく削ります。実行機能が働きにくくても、最初の一歩が十分に小さければ、着手のハードルは大きく下がります。

ステップ4:1個だけ手前に置き、終わるまで他を見ない

刻んだ一手のうち、いちばん動かしやすいものを1個だけ手前に置き、それが終わるまで次を見ないようにします。付箋なら1枚だけを机に貼り、残りは引き出しにしまう。アプリなら1件だけ表示する。目の前に選択肢が1つしかない状態を作ることが、シングルタスク化の核心です。終わったら次の1個を出す、という繰り返しにします。

この手順が効く理由

4つのステップは、いずれも「頭の中で判断・記憶する量を減らす」ために設計されています。書き出すことでワーキングメモリを空にし、刻むことで実行機能の負担を下げ、1個に絞ることで切り替えのコストをなくす。特性に逆らって頑張るのではなく、特性に合わせて環境を整える形です。完璧じゃなくていい。少しずつで構いません。

なお、こうした仕組み化に取り組んでも仕事そのものが続かないと感じている場合は、原因が別のところにあることもあります。関連して、ADHDで仕事が続かない理由と対処もあわせてご覧ください。

タスクを「見える形」にする方法(付箋・カレンダー・アプリ)

シングルタスク化の土台になるのが、タスクの可視化です。ワーキングメモリが狭い以上、記憶に頼る運用は必ずどこかで破綻します。覚えておく代わりに、目で見て確認できる状態を作ることが、遠回りのようで最短の道になります。ここでは、道具ごとに向き不向きと具体的な使い方を挙げます。

付箋:着手のハードルを最も下げる道具

付箋の強みは、1枚に1タスクという物理的な制約です。「今やる1個」を1枚だけ手前に置き、終わったら剥がして捨てる。この「剥がして捨てる」動作が、小さな達成感につながります。使い方の例を挙げます。

  • 1枚につき、10分で終わる一手だけを書く(大きな仕事は書かない)
  • 今日やる分だけをモニターの縁に横一列に並べ、上限を5枚までにする
  • 終わったら即座に剥がし、残り枚数が目で減っていくようにする

カレンダー:時間の場所を先に確保する

ADHDの特性があると、締め切りが遠い作業ほど着手が遅れる傾向があります。これに対しては、タスクをリストに並べるだけでなく、「いつやるか」をカレンダーの時間帯として先に押さえておく方法が有効です。「木曜の10時〜10時半は資料の見出しづくり」というように、作業に時間の場所を与えるのです。予定として枠が入っていると、着手の判断そのものを減らせます。時間管理の土台を整えることは、遅刻の予防にもつながります。関連して、ADHDで遅刻を減らす仕組みもご覧ください。

タスク管理アプリ:数が多い人の受け皿

抱えるタスクの数が多く、付箋では追いつかない場合は、タスク管理アプリが受け皿になります。ただし、注意点があります。多機能なアプリほど設定に時間を取られ、アプリを整えること自体が新しい先延ばしの対象になりがちです。選ぶ基準はシンプルさで、次の点を満たすものをおすすめしています。

  • 1画面に「今日やること」だけを表示できる
  • 入力が数タップで終わる(項目が多すぎない)
  • 通知で「次の一手」を1件だけ知らせてくれる

道具を増やしすぎないことが大切です。付箋・カレンダー・アプリを全部同時に使うと、タスクの置き場所が分散し、かえって管理が破綻します。まずはどれか1つに絞り、慣れてから足すかどうかを考える形が現実的です。

割り込みへの対処(一度失うと戻れない前提で守る)

シングルタスクの体制を作っても、会社員として働いていれば割り込みは必ず発生します。メール、チャット、電話、上司からの声かけ。ADHDの特性があると、一度作業から引き離されると、元の場所へ戻る道筋を見失いやすい傾向があります。中断した後の再着手に、大きなエネルギーがかかるのです。したがって、割り込みは「対応する」より先に「発生させない・記録する」の順で対処します。

対処1:通知を切り、確認する時間をまとめる

メールやチャットの通知は、届くたびに作業を切り刻みます。常時オンにするのをやめ、「11時」「15時」など確認する時間帯をあらかじめ決めてまとめる形にします。その時間以外は通知を切っておくことで、割り込みの回数そのものを減らせます。

対処2:中断される時は「戻り先メモ」を1行残す

声をかけられて作業を離れざるを得ない時は、離れる前に「次に何をするつもりだったか」を1行だけ付箋やメモに書き残します。「あと、送信ボタンを押すだけ」「見出しの3つ目から」というように、再開地点を言語化しておくのです。この1行があるかないかで、戻ったときの負担が大きく変わります。

対処3:割り込みで浮かんだ用事は「後で箱」へ入れる

作業中に「そういえばあれもやらなきゃ」と別の用事を思い出したときは、その場で手をつけてはいけません。思いついた用事を1枚の付箋やメモ(「後で箱」)に書き出し、頭からいったん追い出して、今の1個に戻ります。思いつきに反応しないための、受け皿を用意しておくことが割り込み対策になります。

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優先順位のつけ方(判断を減らす表を使う)

「どれから手をつけるか」を毎回その場で考えると、ADHDの特性の影響を受けやすくなります。目に入ったものや、面白そうなものから手をつけてしまい、締め切りの近い仕事が後回しになる、といった形です。これを防ぐには、優先順位を毎回考えるのではなく、あらかじめルール化しておくのが有効です。

基本になるのは、「緊急度」と「重要度」の2軸で仕分ける考え方です。下の表に沿って、朝に書き出したタスクを4つの箱へ振り分けます。判断の基準が決まっているので、迷う時間を減らせます。

表:緊急度×重要度でタスクを仕分ける優先順位マトリクス
区分 緊急度・重要度 具体例 扱い方
A:最優先 緊急・重要ともに高い 今日締め切りの提出物/トラブル対応 今日の最初の1個にする。他をしまってから着手する
B:時間を確保 重要だが緊急ではない 来週の資料/スキルの学習/段取りの見直し カレンダーに時間の枠を先取りし、着手を予約する
C:まとめて処理 緊急だが重要度は低い 短い返信/簡単な確認/定型連絡 決めた時間帯にまとめて片づける。単独では割り込ませない
D:手放す 緊急・重要ともに低い 惰性で続けている作業/過剰な確認 やめるか、頻度を下げる。他人に任せる選択も含める

※迷ったら、まず「締め切りが今日か」で緊急度を、「やらないと誰かが困るか」で重要度を判断すると仕分けやすくなります。

ADHDの特性がある方が特に取りこぼしやすいのは、B(重要だが緊急ではない)の区分です。締め切りが遠く、着手のスイッチが入らないまま放置され、緊急のA区分に化けてから慌てる、という流れになりがちです。だからこそ、B区分はリストに載せるだけでなく、カレンダーの時間帯として先に押さえておくことが重要になります。優先順位づけは、意志の強さではなく、こうした仕分けのルールと予約の仕組みで支えるものだと考えています。

まとめ:能力を鍛えるより、仕組みで支える

段取りやマルチタスクが苦手なのは、意志や努力の問題ではなく、ワーキングメモリと実行機能という脳の特性に基づいた反応です。意志や努力とは切り離して考える必要があります。この記事でお伝えしてきた対処を、あらためて整理します。

  • マルチタスクは誰にとっても非効率。うまくやろうとせず、状況そのものを減らす
  • 頭で覚えず、付箋・カレンダー・アプリのどれか1つに書き出して外に出す
  • 今日やる分を3〜5個に絞り、10分で終わる一手まで刻む
  • 「今やる1個」だけを手前に置き、終わるまで他は視界から消す
  • 割り込みは、通知をまとめ、戻り先を1行残し、思いつきは「後で箱」へ
  • 優先順位は毎回考えず、緊急度×重要度の表で仕分けてルール化する

すべてを一度に始める必要はありません。まずは「頭の中を全部書き出す」ことと「今やる1個だけを手前に置く」ことの2つから試してみるのがよいと考えています。完璧じゃなくていい。少しずつで十分です。

本記事は診断・治療を目的としたものではありません。診断・治療・服薬に関する判断は医療機関にご相談ください。仕事や生活の困りごとが強く、専門的な支援を受けたい場合は、お住まいの地域の発達障害者支援センターなど、無料で相談できる公的窓口を利用する方法もあります。ひとりで抱え込まず、使える窓口を頼ってください。

仕組みは、頭の中だけで考えるより、誰かと一緒に「自分の生活に合う形」まで調整したほうが定着しやすいものです。実際のセッションで何をするのかは、ADHDコーチングのセッションの中身で具体的に紹介しています。

よくある質問

マルチタスクは、訓練すればできるようになりますか?

訓練で同時処理の能力そのものを大きく伸ばすことは、現実的ではないと考えています。そもそもマルチタスクは誰にとっても非効率な働き方であり、目指すべきは「うまくやる」ことではなく「シングルタスクに切り替える」ことです。能力を鍛える方向ではなく、環境と手順を整える方向に力を入れることをおすすめします。

付箋・カレンダー・アプリのどれから始めればいいですか?

まずは付箋を1つだけ試すことをおすすめします。1枚に1タスクという制約が、シングルタスク化と相性がよいためです。抱えるタスクの数が多くて付箋では追いつかない場合に、カレンダーやアプリを足すかどうかを考える形が現実的です。最初から全部を使うと管理が分散して破綻しやすくなります。

職場で通知を切ると、対応が遅れて怒られませんか?

常時オフにするのではなく、確認する時間帯を決めてまとめる形をおすすめします。「11時と15時に必ず確認する」と決めておけば、対応が大きく遅れることはありません。必要であれば、確認のタイミングを周囲に一言伝えておくと、認識のずれを防げます。割り込みの回数を減らすことが目的です。

優先順位をつけたのに、結局ちがう仕事から手をつけてしまいます。

それは意志の問題ではなく、目に入ったものに反応しやすいという特性に基づいた反応です。対策は、優先順位を頭で守ろうとするのではなく、A区分の1個だけを手前に置き、他を物理的にしまってしまうことです。選択肢が目の前に1つしかなければ、ちがう仕事に手を伸ばす余地そのものがなくなります。

仕組みを作っても、続かずに元に戻ってしまいます。

元に戻ること自体は珍しくありません。大切なのは、続かなかったことを責めるのではなく、「なぜ続かなかったか」を見て仕組みのほうを調整することです。手順が細かすぎた、道具が多すぎた、といった原因が見つかることがよくあります。ひとりで調整が難しい場合は、第三者と一緒に見直すと定着しやすくなります。

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