ADHDで「職場で嫌われているかも」と感じるあなたへ
——その不安、“脳の反応”かもしれません
「また変なこと言っちゃったかもしれない」
「話しかけたら、相手がちょっと間を置いた気がする」
「こっちを見ながら笑ってた……たぶん私のことだ」
職場での日常の中に、そんな「ちょっとした違和感」を感じる瞬間、ありませんか?
その違和感が続くと、やがてこうなっていきます。
「もしかして、嫌われてる……?」
この嫌われ感。実は、ADHDの特性のひとつである「感覚の過敏さ」「自己認知のゆがみ」「衝動的な自己否定」と密接に関係しています。
なぜADHDの人は「嫌われている気がする」のか?
「嫌われてる気がする」は“感情”ではなく“反応”の一種
まず最初にお伝えしたいのは、
「嫌われてる気がする」は、あなたの性格がネガティブだからではないということです。
この感覚は、人間関係に対する認知と反応のクセとして現れるものであり、
特にADHDの人は、いくつかの理由からその感覚を抱きやすい傾向があります。
感情の読みすぎ・失敗の記憶が強く残る脳のクセ
ADHDの人は、「人の表情・空気・反応」に対して非常に敏感です。
それ自体は生きづらさの裏返しであり、むしろ他者に対して気を遣いすぎる人が多い。
さらに、過去に怒られた・責められた・ミスをした経験が強く脳に残っているため、似たようなシチュエーションになると、「またあのときみたいに嫌われるかも」という防衛反応が先に出るのです。
ADHDの脳が“誤解しやすい構造”になっている
ADHD特性として以下のような傾向が知られています。
- ワーキングメモリが弱いため、記憶が「点」で保存されやすい
→ 会話の流れや文脈をうまく残せず、「嫌な反応だけ」が記憶に強く残る - 自己評価が極端になりやすい
→ 「一度ミスした=自分はダメな人」と飛躍しやすい(全か無か思考) - 脳の報酬系の感度が低いため、“褒められたこと”より“怒られたこと”の方が長く残る
これらが重なると、本当は嫌われていないのに、嫌われているように感じてしまう構造ができあがってしまうのです。
「嫌われてる」は事実ではなく、そういうふうに受け取ったという感覚かもしれない
もちろん、実際に人間関係で摩擦が起きることもあるでしょう。でもそのすべてが「嫌われた」ではないし、あなたが感じている“距離感”や“違和感”の正体は、コミュニケーションのすれ違いであることも多いのです。
あなたが悪いわけじゃない。
「そういうふうに脳が反応しやすい」だけかもしれないんです。
“嫌われること”が起きやすいADHDの職場行動
——悪気がないのにズレてしまう、そのすれ違いの正体
✅「嫌われたかも…」と思って振り返ると、何かしていた気がする
ADHDの人が職場で人間関係に悩むとき、たいていの場合、
「自分では良かれと思ってやったことが裏目に出ていた」というケースが多いです。
でもそれは、わざとではないし、性格が悪いわけでもありません。
ただ、認知のクセと行動のスピードのズレが、誤解を生みやすくしているだけなんです。
1. 先回り・早とちり・確認不足が「勝手に動く人」に見える
- 指示を最後まで聞く前に「たぶんこうだな」と動いてしまう
- 空気を読んだつもりでフォローに入るが、実は不要だった
- 質問せずに自己判断 → 方向性がズレる
ADHDの衝動性や「思いついたらすぐ動く」特性は、スピード感があるとも言えます。
しかし、職場では確認・共有が重視される環境も多く、そこを飛ばしてしまうことで、「勝手な人」「空気が読めない」と誤解されてしまうことがあります。
2. 場の空気や表情を“読みすぎる”ことで疲弊し、沈黙を選ぶ
- 「怒ってるかも」「自分のせいかも」と感じて話しかけられなくなる
- 無言の時間が気まずすぎて、雑談にも入れない
- 自分から距離を置いてしまう(→さらに孤立感)
ADHDの人の中には、HSP的な特性(感受性が高く、人の感情に敏感)を併せ持つ人も多く、「空気を読めない」と言われながら、空気を読みすぎて動けなくなるという二重の苦しみを抱えていたりします。
3. 謝るタイミング・伝え方が独特で、誤解を生みやすい
- 言い訳がましく聞こえてしまう(でも本人は説明してるつもり)
- 「すみません」のあとに余計なことを言って火に油を注ぐ
- 自分の中では反省してるのに、それが相手に伝わらない
これは「感情と言語のズレ」や「口頭での整理が苦手」という実行機能の問題からくることも多く、
本人としては反省しているのに、相手からは軽く見られているように感じられることもあります。
4. そもそも「嫌われた」と誰が決めたのか?
- あいさつの声が小さかった
- 昼休みに一人でいた
- 話しかけられなかった
こうした「ちょっとしたこと」から、ADHDの人は「嫌われた」という感覚に変換しやすい傾向があります。
しかし、相手に悪気はなかった可能性も、状況的に仕方なかっただけのことも、実際には多いのです。
“嫌われた”と思って距離を取ったことで、
本当に関係が薄くなってしまう——という悪循環に陥りやすいのが、ADHDの人が職場で孤立しやすい一因です。
この「嫌われ感」にどう対処していくか。行動レベルで変えていける3つのステップを紹介していきます。
「嫌われ感」への3つの具体的対処ステップ
——“誤解のループ”から抜け出す、やさしい方法
「嫌われている気がする」
「何か悪いことをしたのかも」
「でも、どうすればいいのか分からない」
その状態で立ち尽くしてしまう前に、今日からできる3つの対処ステップを紹介します。
どれも、気合いや根性ではなく、“脳のクセに合わせた”行動デザインです。
✅STEP 1|「事実」と「感情」をノートで分けてみる
頭の中だけでグルグル考えると、「嫌われてる感覚」がどんどん増幅していきます。
そこで有効なのが、“書き出す”こと。
✅書き出し方の例
書く内容 | 書き方の例 |
---|---|
✅ 何があった? | 「昼休みにAさんと目が合わなかった」 |
✅ どう感じた? | 「無視されたかも、嫌われた?」 |
✅ 客観的事実は? | 「あいさつはした」「会釈していた」 |
→ 感情と思考を切り離すことで、「それって本当に嫌われてるのか?」と見直す力が生まれます。
✅STEP 2|“信頼を取り戻す行動”を1つだけ固定する
嫌われた気がすると、「何かを変えなきゃ」と焦り、空回りしがちです。そうではなく、これだけは守るという行動をひとつだけ決めるのがポイントです。
✅行動例
- 毎朝「おはようございます」を“3人には”自分から言う
- 報連相は必ず「14時に1回だけ」Slackでまとめる
- 「迷ったら聞くメモ」を常に机の上に出しておく
→ 信頼は“積み重ね”で生まれます。全体を変えようとせず、「一個だけ」決めて続けることで十分です。
✅STEP 3|“嫌われてもいい領域”を自分で設定する
完璧を目指すと、すぐにしんどくなります。
だから、**「この分野では嫌われてもいい」**とあえて決めてしまうのもひとつの方法です。
✅例
- 雑談に入れない → 「昼休みは静かに過ごす自分」でOK
- 飲み会に行けない → 「飲み会には来ない人」キャラで定着させる
→ すべてを“好かれよう”としなくて大丈夫。あなたに合ったスタンスで、長く続く関係をつくる方がずっと大事です。
「嫌われてる気がする」から、「それでも大丈夫な自分をつくる」へ。
その小さな一歩が、明日を変えはじめます。
以下から、当事者の体験談を通して「嫌われていると思っていたけれど、実はそうじゃなかった」ケースを紹介していきます。
当事者の声|「嫌われてると思ってたけど、違った」体験談
「きっと嫌われてる」
「距離を置かれてる気がする」
そう感じていたけれど、あとになって振り返ると、“思い込みだった”と気づいたというケースは少なくありません。
ここでは、実際にADHD傾向を持つ人たちが経験した、“誤解とその解きほぐし”のストーリーを3つご紹介します。
✅ケース1|「怒られたら終わり」じゃなかった
背景
30代・男性。ADHD傾向で、報連相が抜けやすいタイプ。
上司から厳しく指摘され、「もう完全に嫌われた」と思っていた。
でも実際は…
その後、「毎週月曜の朝に進捗報告だけする」というルールを自分から提案。
1ヶ月後、上司から「その習慣、助かってる」と言われ、関係が一気に改善。
ポイント
怒られた=関係終了ではなかった。
相手は「直す気があるか」「どう挽回するか」を見ていた。
✅ケース2|チームLINEに一言入れただけで、見え方が変わった
背景
20代・女性。会議などで発言するのが苦手で、「存在感がなくて嫌われてるかも」と感じていた。
でも実際は…
会議後に「今日はありがとうございました!」とだけ、チームLINEに一言送るようにしたところ、
先輩たちからのリアクションが増え、自然に話しかけられるように。
ポイント
“無言”ではなく、“短くても存在を示す”ことで、相手の印象は大きく変わる。
声が大きくなくても、「ここにいます」のサインは出せる。
✅ケース3|“嫌われてる前提”で接していたのは自分だった
背景
40代・男性。ADHD+ASD傾向あり。雑談が苦手で、休憩時間は1人。
「みんな距離を取ってる気がする」と感じていた。
でも実際は…
ある日、勇気を出して「いつも1人でご飯食べてるんです」と笑って言ったら、
「え、誘ってほしいタイプなのかと思ってた!」と驚かれる。
ポイント
“嫌われてる”と思っていたのは、自分が距離を取っていたからだった。
すこしだけ“安心感”をにじませると、関係性はゆるくほぐれていく。
「嫌われてたんじゃなくて、ただ“伝わってなかった”だけだった」
そんなケースが、実はたくさんあります。
「どうしてもしんどいときは、助けを求めていい」というのも忘れないでください。
「自分が変わらなきゃ」
「もう少し頑張ればなんとかなる」
「みんな普通に働けてるのに、なんで自分だけ…」
そう思って耐え続けていませんか?
けれど、孤立感や“嫌われている不安”が強くなりすぎたときは、助けを借りる準備をしてもまったくおかしくありません。
ここでは、具体的に“誰に・どうやって・何を相談すればいいのか”を紹介します。
✅産業医・人事への相談を「自分の味方につける」つもりで
会社に産業医や人事担当者がいる場合、
“問題を指摘される前に”自分から相談するのが重要なポイントです。
✅相談のコツ:
- 「こんな失敗がありました」ではなく
→「こういう困りごとがあるので、こう工夫しています」と伝える - 「助けてください」ではなく
→「相談させてもらってもいいですか?」というスタンスで
→ 自分の不安を一方的に吐き出すより、「改善意欲がある人」と見てもらうことが鍵になります。
✅発達障害者支援センターや外部相談窓口の活用
自治体やNPOには、発達障害・ADHDに関するサポートをしている機関があります。
多くは匿名でも相談可能です。
✅たとえば…
- 各都道府県の「発達障害者支援センター」
- 発達障害ナビポータル(厚労省)
- LITALICO発達ナビ
- メンタルヘルス総合支援サイト「こころの耳」
→ 「会社の人には言いづらい」場合、まずは“外”で整理することもOKです。
✅社内での伝え方:「困っていること」だけでなく「工夫していること」もセットで
もし勇気を出して社内で話すなら、“弱さ”だけではなく“対処努力”も一緒に伝えるのがベストです。
✅伝え方テンプレート:
「実は、自分には注意力や記憶力の面で少し課題があります。
ただ、それを補うために、タスクは必ずメモして、毎朝見直すようにしています。
もし抜けているところがあれば、遠慮なく教えていただけると助かります。」
→ “問題”を語るよりも、“自分をよりよく働かせる工夫”を語ることで、信頼を落とさずに済みます。
「ひとりでなんとかしようとしない」
それは甘えではなく、“関係を保つ努力のひとつ”です。
まとめ|“嫌われているかも”という不安との付き合い方
——職場の人間関係と、ADHDの脳と、自分自身とのちょうどいい距離感
✅「嫌われている気がする」は、ADHD脳がつくる“感覚のトラップ”
- 自己評価のブレが大きく、ネガティブに偏りやすい
- 相手の反応を“読みすぎる”ことで、誤解が生まれる
- 一度の失敗や沈黙を「関係が壊れた」と感じやすい
こうした傾向は、あなたの性格のせいではなく、脳の特性。
まずはそこに気づくだけでも、見え方は大きく変わります。
✅行動を変えることで、“見え方”も変わっていく
- 「嫌われたかも」を書き出して、事実と感情を整理する
- 信頼をつくる行動をひとつだけ決めて積み重ねる
- 全員に好かれようとせず、“嫌われてもいい領域”をつくる
→ 完璧じゃなくてもいい。小さな行動が、自分の居場所をつくっていきます。
✅「助けを求める力」も、社会で生きていくうえでの立派なスキル
- 必要なら、社内外の支援を使うことも選択肢に
- 「困っていること」と「工夫していること」は、セットで伝える
- 自分の努力が正しく伝わるように、言葉を選ぶ練習をしていこう
職場での違和感、人間関係の揺れ、そして「嫌われてるかも…」という不安。
それらは、あなたの“弱さ”ではなく、社会のなかで生きていくための試行錯誤の一部です。
もしあなたが今、
「なんだか職場で浮いている気がする」
「どうせ嫌われてるし…と諦めたくなっている」
そんな気持ちになっていたら、この記事をそっと思い出してください。
あなたの感覚は間違ってない。でも、それが“すべて”ではありません。
あなたは、そこにいていい人です。
そのうえで、今日できるひとつをやってみよう。
たとえば、「ありがとう」を言ってみる。
それだけで、明日は少しやさしくなるかもしれません。